[III] 火曜日「弓矢の得意な王妃とサルの芸」

語られた物語のおかげでかなり気分がよくなったバフラーム王は、若者たちの助言の効果があったと考えた。かれらの忠告どおり火曜の早朝、すべてが真紅に飾られた第二の宮殿へと輿に乗って行った。そして宮廷人たちも自分もまた同じ色の服を着て、第二の地域の少女を前に呼び、第二の語り手を来させるよう命じた。語り手は王の御前に参上すると手に接吻をし、相談役から話を演じるように命じられた。命令を受けた語り手は、こう語り始めた。


かつて古都ベネフセ[ベニスエフ]に強大な王がいて、たくさんの村と辺境地をその支配下に収めていました。大きな権力を持ち、町の中央に邸宅として立派な城砦を築かせました。その城は凶暴な狂犬百匹に守られており、死刑を宣告された罪人はこの犬たちに食われることになっていました。王には一人息子がおりました。息子はさまざまな技に秀でていましたが、なによりも弓矢にかけて同年の者たちより抜きん出ていました。一人息子でしたから、王国継承者となる子供を作るため、この息子に妻を取らせようと父親は決心しました。そこである日息子を呼んで自分の決心を明かし、そのために偉大な君主たちの娘から数多くの申し出があることも言いました。息子はそれに答え、父のどのような望みも受け入れると言いましたが、ひとつだけ強くお願いしたいことがあると付け加えました。女性選びを夫となる自分に任せて欲しいということでした。生涯連れ添う妻を選ばなければならないのだから、他人ではなく自分の目で見て気に入った娘を欲しいと言うのです。父親は同意しましたが、若者が満足する娘を見つけることができませんでした。父親はそのことを気に病んで、だれからも助言を受けることもできず、思い悩んでつらい日々を送っていました。

その宰相に賢く美しい娘がありました。その乳母は非常に勇敢な女で、若者が気に入る娘が見つからないのを見て、宰相の娘ならその美しさから見て若者の気に入るだろうと考えました。そこで王子といっしょになる機会を捉えて、その主の娘を一目見れば、その同年の者から抜きん出た思慮深さと姿形から、きっと妻として迎え入れることになるだろうと伝えました。この言葉に若者は耳を傾けて、どうすれば彼女を見ることができるか教えるように乳母に頼みました。

乳母はこう答えました。「わが主人である宰相は、毎週日曜日に娘を狩に送り出すことになっています。一週間の間ずっと徳行に励んでいるので、せめてその日ばかりは愉しむようにと。もしあなたが彼女を見たいのなら、今度の日曜日に狩場へお越しになれば、その機会は簡単にみつかるでしょう」こう聞いて若者は乳母に対して感謝し、自分の従者一人だけにこのことを打ち明けました。そしてその従者を連れて日曜日に馬にまたがり、宰相の女たちから離れてその後をついていきました。

町からおよそ三マイル離れたところに、信仰の対象となっている小さな教会がありました。乳母から教えてもらった特徴で若者がその娘だと見当をつけた女性は、一行といっしょにそこへ着いたとき、その鐘楼に二羽の鳩を見かけました。弓矢を手にして、鳩を射止めようと構えました。しかし離れたところにいた若者はそれを見てすぐに自分も矢をつがえて彼女よりも先に矢を放ったので、一羽の鳩は彼の放った矢に射抜かれて地面に落ちました。もう一羽は驚いて飛び上がりましたが、空中で娘の放った矢に射抜かれました。こうして彼女の弓矢の技量を見た若者は非常に驚き、彼女のほうが彼よりも見事な腕前だったことを知らせようと、馬丁に命じて彼が殺した鳩を彼女に届けさせ、より見事な矢を放った彼女がその鳩を手にするべきだと伝えさせました。すると娘は若者の寛大な行為を知って、自分より心が広い人がいるのに我慢できず、その主人が示してくれた礼儀に彼女の代わりに感謝を伝えてほしいと言い、自分が射た鳩もその主人に渡すように馬丁に伝えました。戻ってきた馬丁がそう報告すると、王子は娘の大胆さと思慮深さを理解して、顔を見ていなかったのにもかかわらず彼女に対する愛情を感じました。どうしてもその顔を見たい気持ちになって、女たちの一行から遠くない薮の影に身を隠しました。そのそばに美しい澄み切った泉がありました。狩に疲れてひどく喉が渇いていた彼女は顔をさらし、泉の水を小さな壷に入れて運ばせました。こうして若者は彼女を見ることができ、その美貌について乳母が語っていたことが真実だと確認しました。この娘を自分の妻としようと決心すると、そのことをすぐ父親に告げました。

息子が気に入る女性を見つける希望を失っていた王はこの知らせにひどく喜んで、宰相を呼んで息子の希望を伝え、ふたりの間でひそかに婚約を取り交わすと、後で折を見て発表することにしました。若者は娘のことを深く愛していたので、とても嬉しく思い、婚姻の儀式を挙げることをなによりも待ち望んでいました。

しかし神の御意志に従い、重い病に罹っていた王がしばらくしてこの世を去りました。王の死去によって息子は王国を継承して都市と臣下を統率するのに必要な事柄を済ませた後で、盛大な祝宴で婚姻を公にし新婦を王宮へ招きました。

そこで荘厳な結婚式が執り行われ、彼は娘と床に入りました。「陛下」と娘は言いました。「わたしはすべてあなたに従いますし、あなたに同意するのが当然ですが、あなたがわたしの隣に横になられる前に率直にお願いしたいことがひとつあります。わたしを妻とするのなら、貨幣の上に、あなたの名前と並んでわたしの名も刻むことを認めて欲しいのです」

その願いに対し、王は自分の名誉にかけて、認めることはできないと考えました。「妃よ」と彼女に言いました。「わが先達のだれかが過去に行ったことなら、お前に感じている多大な愛情によって、そんなことだろうと、さらに大きなことだろうとしてあげるだろう。そのことについては試してみればすぐに分かるだろう。だがこの王国であれ他の王国であれそんなことが行われたとはかつて聞いたことがない。だから、なによりも重要な名誉を守らねばならないわたしはその願いをかなえられないが、わたしの謝罪で満足してほしい」

その言葉に対して「陛下」と彼女は答えました。「あなたに初めて求めたお願いを拒否されるとは本当に思いもよりませんでした。しかしこの正直な願いをかなえてくださらないのなら、わたしはあなたにとって本当は無意味な存在だと判断いたします。ですから、あなたがわたしの横にこられたなら、わたしが死を選ぶことをお知り置きください。おっしゃられたようにあなたが名誉を重んじられるのが正しいように、わたしもまた同様に自分を尊重しなければなりません」そうした女王の決心に王は大変悩み、巧みなやり方でもう彼女がそれを要求しないようにしようと考えました。ある日、彼女への自分の愛情について彼女と長い間議論をしました。

「王妃よ」と彼女に言いました。「まことにお前はわたしの妻なのだから、貨幣にわが名と並んでお前の名前も刻まれなければ床を共にするのを拒否するということは、わたしに対するひどい無礼である。しかしわたしがお前を満足させるためにどんなこともするとお前が信じるように、もし弓矢でわたしがして見せるのと同じことをおまえができたとしたら、その名前を必ず貨幣に刻むことを請合おう」娘は弓矢の術に秀でていて小さい頃から絶えず技を磨いてきましたから、それで結構でございますと王に答えました。そこである夜のこと、彼は夕食後に大広間へ彼女を連れて行って、それほど大きくない盥を広間の端に置かせて、彼女に見せました。その後、盥に向かって三本の矢を射るのだと説明してから、彼女と共に広間の反対側へ行きました。そして灯された明かりをすべて覆わせ、王は弓を手にして三本の矢を放ちました。矢は盥を打ち抜き、はっきりとその音が聞こえました。王がそれをやった後で、女王も弓を手にして三本の矢を放ちました。最初の矢の音は聞こえましたが、第二と第三の矢の音は聞こえません。王はひどく喜びました。第二と第三の矢は盥を射抜かなかったと思ったからです。彼は胸の内でつぶやきました。

「これで、わが妃のやっかいな要求から解放されるだろう。これから先悩むこともないし、わたしが床を共にするのを彼女が拒否することもないだろう」そして明かりをもってこさせると、自分の三本の矢が見えました。それが盥の三箇所を射抜いた音は聞こえていました。一方、女王が放った最初の矢は盥の中心にあり、他の二本はそれぞれ一本につながって突き刺さっていました。これにひどく驚いた王は、仰天して苦しみました。約束はしたものの、王妃の弓矢の技量がこんなに見事だと信じられませんでしたし、彼女の要求をかなえることもしたくありませんでした。そこで女にした約束を破ることは自分の名誉にふさわしくないと分かっていたので、その翌日、病気になったふりをしました。そこで賢明で慎ましい王妃はそのことで王を悩まさないようにと、貨幣に名を刻むことを要求しなくなりましたので、王の健康はすっかり元に戻りました。

その頃、その国の近隣の町から、たくさんの一角獣が襲来し多くの被害を出しているという知らせが届きました。抜け目のない王は、これを利用して女との約束から自由になろうと考えました。そしてまた病気に罹ったふりをすると、体調が良くなったらふたりで一角獣がいる土地へ行って、どうにかして国境の外へ駆逐しようと王妃に言いました。しばらくすると仮病から治ったふりをして、宮廷の者に対し各人が三日後に命令に備えるようにと御触れを出しました。一角獣に荒らされた町々へ馬に乗って行くつもりだったからです。そこでその期限に合わせて宮廷の者たちは全員が準備をし、王は王妃と宮廷の臣下たちと共に進みました。旅の疲れを甘い楽しい会話で紛らわしながら、しばらくすると一角獣がいる場所へ到着しました。その町から二日の距離に来たとき、旅の疲れを癒すために一行は休息をとりました。そのあたりの一角獣を追い払うために、町の中ではなく町の外の近くの野原に天幕を張るように王は家臣たちに命じました。その命令にしたがって、一同は野原に宿営しました。王の命令どおり、あちこちへ馬に乗って行って数多くの一角獣を矢で射殺しました。

ある日、王が王女と野原にいるとき、例の動物の雄雌がいるのを見ました。若い王は非常に抜け目のない男だったので、貨幣に名を刻むと妻に約束した借りを返すべきときが来たと考えました。彼女に向かい

「王妃よ」と言いました。「盥に向かって矢を射たときに貨幣に名を刻むという約束を守らなかったことで、お前に対し借りがあることを承知している。しかしあのときは病に罹ってしまい、その後まもなくこの地方へ出発したために、これまでその借りを返すことができなかった。もしお前の知恵で、今そこに見えている雄の動物を雌に、そして雌を雄に変えることができたなら、帝都に戻り次第、わたしが支払うべき借りを真っ先に返してやろう」その言葉に王妃は答えて、もし彼女に求めることを彼ができるのなら、彼女も一角獣について言われたとおりのことを実行してみせましょう、それができなければ彼に対する借りを帳消しにしてかまいませんと言いました。それを聞いて王はとても喜んで、出された条件を受け入れると答えました。弓を手にして、最初に、雄でない動物の尻尾を射て、射抜かれた痛みにそれが脚を蹴り上げたところを、すかさず二番目の矢で臍を射抜きました。それで矢の半分が体に突き刺さり、突き出た部分がまるで動物の男性性器のように見えました。その後ただちに雄の一角獣の雌の部分を射抜いたので、その開いた傷口が雌のように口を開けました。そして王妃に向かい、「今度はあなたの番です、王妃よ」と言いました。「わたしの矢よりも見事な矢を射ることができますか」 彼がそう言うと、彼女は弓を手にして、第一の矢で雄の角を射切って地面に落とし、第二の矢を雌の額に突き立てたので、たしかに雌は雄に、もともと角のない雌は雄に見えました。

そんな技量を見た王は、名を貨幣に刻むことを妻に対して拒否できないと悟りましたが、自分の名誉を守るためにはそうしたくなかったので、非常に腹を立てました。技でも知恵でも彼女の方が勝っているとわかって、彼女をなんとかして殺そうと考えました。しかしその場では自分の気持ちを明かさず、天幕に帰ってから宰相の一人にこう命じました。翌晩に王妃が天幕に戻ったときに静かに縛り上げ、帝都へ連れて行って、夜は壕の中の檻に入れられている百頭の凶暴な狂犬の間に放り出して食べさせてしまえと。宰相はすぐそれを実行し、哀れな娘は密かに帝都へ連れて行かれ、王の冷酷な命令に従って犬の餌にされました。しかしその冷酷な考えは失敗しました。犬は彼女だとわかって(彼の妻になってから彼女が毎日餌を与えていたのでした)、大歓迎し、彼女は壕の穴を塞いでいた石を持ち上げ、そこを通って町の外へ無事に逃げることができました。

彼女は太陽が昇るまで歩き続け、町からさほど遠くない村の、貧しい農民の家にたどり着きました。農民は一匹のサルといっしょに家族を養っていました。そこで彼から身の上を尋ねられた娘は、自分は貧しい外国人でこの偏狭の地に主人を探しに来たと答えました。同情した農民は、美しい娘の様子を見て喜んで迎え入れました。日ごとに彼女に素晴らしい才能があることを知ってますます愛情は強まり、娘として受け入れることにしました。そうして、サルを連れて周辺の村落を回り、家族と一緒に彼女を愛情をもって育てました。

それからしばらくして帝都へ戻った王は、宰相から命令を果たしたと聞かされました。すでに自分が非人間的な命令を下したことをひどく後悔し、惨めな苦しい日々が続きました。そのせいでまもなく重い病に罹ってしまい、なんの治療も効果がなく、死が避けようもなく迫っているのがはっきりとわかりました。このことが近くの町や村落に知れ渡り、農民の家にいた王妃の耳に入りました。大変愛していた夫である王のことを知った彼女は、自分が原因でそうなったのだと理解して、自分なら治療法を見つけられると考えました。そして、王の病気を治したい、そうすればたくさんの褒美を手にできるだろうと農民に打ち明けました。「宮廷へ」と彼女は言いました。「行って下さい。そして王の大臣に、これまで王の病気にはまったく治療法が見つからなかったけれど、自分なら元の健康な状態に戻せると申し上げてください」

そしてどんな治療をすればよいのかと農民が尋ねると、彼女は「わたしには自信があります」と言いました。「人の噂によると、王の病は激しい憂鬱と深い思い悩みが原因だということです。ですから、彼はただ愉しむ必要があるのですから、御前に行ったらこう申し上げてください。『陛下、わたしは陛下の病の性質をよく存じており、神のご加護のもと、直ちに治して差し上げられると思います。陛下の町の郊外には美しい素敵な庭園がたくさんあります。一番広い庭園を選んで、平屋を設えてください。そこに王にふさわしい品々を備えてから、すぐにそこへお入りください。わたしも後を追って参上し、陛下の病の治療法を見つけてご覧に入れます』」そして王妃は農民にこう付け加えました。「こう申し上げて、王があなたの助言を実行した後で、あなたはサルを連れていつもの芸をさせてください。王を愉快で楽しい気分にすれば、前のような健康を取り戻すことができるでしょう」

農民はこの言葉を聞くとすぐに町へ向かい、娘に教わったとおりのことを王に伝えると、王は治りたい一心で、病気から自由になれるのなら聞いたことを実行すると答えました。執事を呼んで、町のそばにある見事な庭園に王ために平屋を準備するよう命じました。執事が実行した翌日には、そこへ輿に乗って行きました。着くと、ナイチンゲールや他の鳥たちが囀る声が聞こえる快適な庭園でかなり気分が明るくなったように感じ、短時間でかなり快方にむかったように思われました。そこに農民はサルを連れてきて王に紹介し、すでに屋敷を変えたことでかなり心が明るくなったことを見て取り、すぐに元の健康状態に戻せると保証しました。そして自分のサルを使って王の前でいろいろな芸をさせ、何度も王を笑わせました後で、サルを台所へやりました。台所は屋外にあって、王のいる部屋との境には窓がありました。農民はサルを台所に繋ぐと王のところへ戻り、愉快な話をあれこれ始めました。そんな風に面白おかしく時を過ごしていると、台所からなにやら物音が聞こえてきました。窓に近づいて覗いて、サルの姿が見えました。そこに一人でいたサルは、太った雄鶏が二羽火にかけられている鍋に近づきました。サルはあたりを見回して自分しかその場にいないのを見ると、鍋の蓋を開けて一羽の雄鶏を取り出し、座ってそれを食べようとしました。そのとき、大きなトンビが獲物を見つけて飛び降りてきて、サルの手から雄鶏を奪って空へ飛んでいってしまったので、サルはひどくがっかりしました。

サルは機会がありしだい思い切り復讐しようと決心し、台所の隅へじっと潜んで、またトンビが戻ってこないか眺めていました。しばらくして目を上げると、トンビが台所の周囲を飛んでいるのが見えました。賢く抜けのないサルは再び鍋に近づいて、もうひとつの雄鶏を取り出しました。そして座って食べるふりをし、トンビがさらおうとサルの頭上に舞い降りて二羽目の雄鶏も奪ったと思われたとき、待ち構えていたサルの方がトンビを捕まえて殺してしまいました。そして殺しただけでは満足せず、できる限りきれいに羽を毟り取ると、取り出した二番目の雄鶏と一緒に、火にかかった鍋へ投げ込みました。この光景を見た王は、サルの知恵に大変驚くと共に面白がって、愉快な気分を味わいました。しばらくして王の食事がどの程度まで進んだのかと料理人が台所へ戻ってきて、鍋の蓋が開いているのを見て驚きました。そして玉じゃくしを手にして鍋から雄鶏を出そうとして、哀れなトンビを見つけました。料理人はこの出来事に困惑し、いったいなぜこんなことになったのか分からず頭を抱えました。病気の王は雄鶏しか食べなかったので、君主である王にどんな食事を用意すればいいか思いつかずに当惑していました。窓からすべての成り行きを見ていた王にするとそのことはとても面白く思えたので、激しい憂鬱から解放されて本当に以前の健康を取り戻したと思いました。料理人のその悩みをそのままにしておくこともできないので、サルの知恵とトンビの不運を最初から語って聞かせて、すぐに別の料理を用意させました。

そして何日間もこんな風に鳥のさえずりを聞きながら農民が御前でサルに行わせる芸を愉しんで愉快な生活を送っているうちに、失った体力はすっかり回復し、王は都へ戻ることを考えました。そして農民を自分の下に呼んで、健康を取り戻させた秘訣はどこで学んだのかと尋ねました。農民はずっと以前から知っていましたと答えましたが、無知で粗野な人間のように見えたので王はそれを信じず、本当のことを明かすように迫りました。こうして、かれから、主人を求めて村に来た娘がたまたま自分の家を訪れて、その娘から聞いたことをを知りました。そこでこのような恩恵を受けたので、その翌日、王が戻る帝都へ必ずその娘を連れてくるように命じました。ふたりを満足させ、幸せにして村に返すからと。

農民は王の命令を受けて部屋に戻ると、すべてを王妃に話しました。できる限り上等な服を彼女に着せて、翌日、自室に戻った夫である王の前に連れて行きました。王はじっと彼女を見て、彼女が妻である王妃にそっくりだと思いました。

「ああ、信仰にかけて教えて欲しい」彼女に言いました。「控えめな娘よ、お前はだれなのか、だれの娘なのか」それに対して彼女はこう答えました。

「陛下、わたしはあなたの不幸な妻でございます。夜の間城を守っている狂犬に投げ与えて、犬たちに食われてしまったと陛下がお思いになった妻でございます。あなたの妻になってからわたしが餌を与えて慣れ親しんでいたおかげで、犬たちはわたしにまったく危害を加えることなく、とてもやさしく接してくれました。宮殿の壕の穴を通ってわたしは町の外へ逃げ出し、この善良な農民の家に行き着いたのです。娘として受け入れてくれた彼に、わたしは大変感謝しております。その家でしばらく暮らしていたところ、陛下の病の知らせが届きました。ご病気についてのご様子を詳しく理解しようと苦心して、おそらく陛下はわたしの身になされた冷酷な宣告を後悔なさって、そうした危険な重い病気に罹ったのではないかと思いました。そこで楽しい暮らしをするほかには方法はないと悟りました。あなたがわたしに冷酷な死を命じられたのとは正反対に、わたしは生命の確実な危険からあなたを遠ざけようとしたのです。そして陛下の失われた健康を取り戻す治療法を、わたしはこの善良な男を利用して見つけたのです」

この王妃の言葉を聞いた王は涙を抑えることができず、若い娘を抱いて自分の大きな過ちについて許しを請いました。そして彼女が自分の命を救ったと知って自分の妻として迎え、彼女の優れた高貴な知恵のために貨幣に自分の名の隣に彼女の名を刻ませただけでなく、その後は王国の運営にはすべて彼女の助言を受けて行うことにしました。

一命を取り留めたと同時に妻の王妃も手にしたことで王は盛大な祝宴を命じ、農民には彼が住んでいた村をそっくり贈りました。このことで農民は王妃に大変感謝をし、農民から豊かな紳士となって自分の村に大喜びで帰ってゆきました。


[IV] 水曜日「像の重さと塔からの脱出」へ続く→